自動車産業において,車体を軽くすることとその安全性 を高めることは重要な課題である。近年,それらを解決す るために,車体の骨格部品に対する高強度鋼板の使用比率 が高まっている 1)。高強度鋼板の種類は幾つかあり,複合 組織鋼板が汎用的である 2)。その鋼板は延性を担うフェラ イトを母相,強度を担うマルテンサイトを第二相とする二 相組織を基調とする 3)。それぞれの特徴が反映され,その 引張強度は高く,延性も優れる。しかし,引張強度の増加 に伴い,複合組織鋼板の曲げ性は著しく劣化する。これは 高強度複合組織鋼板の欠点であり,その改善が必要であっ た。 高強度鋼板の曲げ性に関する研究は幾つかあり,曲げ性 に影響する組織因子が議論された。木下らは,曲げ性と金 属組織の相関を調査し,母相と第二相の強度差が増加する に伴い,曲げ性が劣化することを見出した 4)。一方,山崎 らは,組織間の強度差が曲げ性に及ぼす影響は小さく,数 千個の結晶粒を含む組織均質性の影響が大きいと主張し た 5)。長谷川らは,曲げ加工部の金属組織を詳細に解析し, 亀裂がせん断帯に沿って発生することを見出し,曲げ性は せん断帯の発生及び亀裂の発生に対する材料の感受性に 影響されることを示唆した 6)。Al合金においては,せん断 帯の発生頻度が曲げ性の支配因子であり,それは金属組織 と転位運動に影響されると説明された 7,8)。さらに,せん断 帯と第二相粒子の相互作用によって,曲げ変形時の割れは 促進されると考察された 9,10)。しかし,高強度鋼板の曲げ 性に関する統一的な見解はない。これは,前述したように, 高強度鋼板が二相を基調とし,さらに,微細な組織を有す るので,フェライト及びマルテンサイトそれぞれ,個々の 変形挙動を実験的に評価できなかったためである。 ナノインデンテーション法によって,サブミクロン領域 の力学的性質が理解されるようになった。この方法は鉄 鋼材料の研究に応用され,局所領域におけるその変形挙 動が解明されつつある 11,12)。ナノインデンテーションによ る解析よって,多相からなるオーステナイト系ステンレ スSUS31613),さらに,高強度複合組織鋼の機械的性質に 及ぼす組織の影響が明確になった 14-16)。また,ナノインデ ンテーション法は鋼材の局部,具体的には,表面における 変形挙動の解析に適用されつつある。香月らは,鋼材しゅ う動部の力学的性質を調査し,表層に形成される加工変質 層とアグレシブ磨耗性の因果関係を見出した 17)。以上のよ 論 文
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