Clinicopathological Studies on Normality in the Aged Heart

日本人の老人心の正常性を臨床的ならびに形態学的に追究した. 臨床的検討は集団検診の計1,253例の心電図, 血圧, 胸部X線像を用い, 病理学的検討は連続剖検例から器質的弁膜疾患を除く275例について次のごとき諸計測を行なった. (1)冠状動脈狭窄はWHOの規準にしたがい100%閉塞を5, 75%狭窄を4, 以下50% 3, 25% 2, 軽度1とし, 3分枝の最大値の和を狭窄指数 stenotic index とした. (2)心重量, (3)心室壁の厚さ, (4)心室容積と, (5)心房容積は Lev の方法により測定し, 次で (7)弁輪周径, (6)弁尖の厚さを測定した.成績: 心電図所見を正常, 準正常, 異常の3群に区別すると, 正常群は19.2%を占め, 高血圧, 心拡大を除くと13.4%となる. 男女差はなく年令とともに正常群の率は減少する. 他方病理形態学的検索では弁膜症なく, 冠状動脈狭窄指数5以下で, 高血圧のない35例 (12.7%) を形態学的正常心として半定量的に諸計測数値を求めた. 心重量は202~350gで年令的推移はなく, 心室壁は右2~4mm, 左6~17mmで年令とともに増し心室容積は右5~40ml, 左5~25mlで年令とともに減じ, 心房容積は右15~70ml, 左20~80mlで年令とともに増大し, 弁輪周径は拡張し, 弁尖は肥厚する傾向を明らかにし, また弁尖の肥厚に性差のある事実を明らかにした. すなわち弁輪周径としては三尖弁75~140mm, 肺動脈弁60~85mm, 僧帽弁70~110mm, 大動脈弁60~85mmである. 弁尖の厚さは三尖弁 (前尖) 0.3~2.0mm, 肺動脈弁 (前尖) 0.1~1.2mm, 僧帽弁 (前尖) 0.4~2.5mm, 大動脈弁 (後尖) 0.3~3.0mmである.これら心疾患のない非老化心も定量計測により若年者と異る態度を示し, 厳密な意味での生理的老化現象の形態学的資料を提出した. またかかる老化現象と老年期心臓病との関係, ことに冠状動脈疾患, 非炎症性弁膜疾患 (大動脈弁閉鎮不全, 僧帽弁閉鎮不全, 石灰化大動脈弁狭窄) との関係についてのべた.