Domestic dengue epidemic in Japan, 2014.

デングウイルス(DENV)は,フラビウイルス科フラビ ウイルス属のウイルスで,DENV には 1 型から 4 型の 4 種が存在し,DENV1・DENV2 は 1943,1944 年 1,2)に, DENV3・DENV4 は 1950 年代 3)に初めて分離された. DENVにも森林型生活環の報告はあるが,現在の流行状 況は,ヒト-蚊-ヒトである.その媒介蚊はネッタイシマ カとヒトスジシマカという人の住環境に生息するヤブカ属 の蚊である.デング熱流行地の熱帯・亜熱帯地域の経済力 発展に伴い,都市への人口集中が,デング熱流行の規模と 頻度を大きくしている.このことは海外への渡航者の増加 や海外からの来日者の増加とともに,日本へのデング熱輸 入症例の増加の大きな要因となっている. 2014年 8月から 10月の代々木公園に端を発したデング 熱国内流行での最初の確認症例は都内の学校に通うさいた ま市在住の 18歳女性であった.2014年 8月 20日夕方に 突然の高熱と全身の痛みで体動困難となり,病院に救急搬 送された.8月 22日には嘔吐と下痢が出現し,その後も 39°Cを超える高熱が持続した.8月 25日の血液検査で白 血球と血小板の減少を認めた.発症前に代々木公園で頻繁 に蚊に刺されていたエピソードがあり,2013年のドイツ 人デング熱症例の報告 4)もあり,海外渡航歴はなかったが, デング熱の可能性を疑いデングウイルス NS1抗原イムノ クロマト検査を実施したところ陽性であった.8月 26日, 国立感染症研究所ウイルス第一部で,リアルタイム逆転写 PCRにより,患者血清中にデングウイルス 1型遺伝子が 検出された 5).本症例から分離されたウイルスの株名は, D1/Hu/Saitama/NIID100/2014とした.GenBankアクセッ ション番号は LC002828である. 今回の流行の原因となったデングウイルスは,デングウ イルス1型(血清型)の遺伝子 I型に分類される.ウイル ス遺伝子の塩基配列は,東京都内で感染したあるいはその 可能性があった症例で遺伝子解析ができたウイルスは,そ の E領域で 100%塩基配列が一致していた.静岡県の1症 例から分離されたウイルス株 D1/Hu/Shizuoka/NIID181/ 2014は,98%のホモロジーであったことから異なるウイ ルス株と考えられた.約 70年前のデング熱流行時のウイ ルスもやはりデングウイルス 1型遺伝子 I型に分類される が,その E領域のホモロジーは 94%であった.系統樹に 示すと,それなりに離れたウイルスである(図 1). GenBankに登録されている情報からは,D1/Hu/Saitama/ NIID100/2014は中国広州の 2013年の株に近いが,我々が 収集した 2014年の流行株の情報からは,インドネシア・ シンガポール周辺の流行株であると推定される.現在,本 ウイルス株のヒトスジシマカにおける増殖性などを検討中 である.東京都内で感染したあるいはその可能性があった 症例からのウイルスの遺伝子配列が一致したことから考え ると,最初の輸入デング熱患者を多数の蚊が刺し,それら の複数の蚊が感染蚊となったと考えられる.上述の症例か らも推察されるが,代々木公園におけるヒトスジシマカの 生息数は当時かなり多く,多数の蚊に刺されたという患者 が少なくなかった.このことは,最初の輸入デング熱患者 を多数のヒトスジシマカが刺し,それらのヒトスジシマカ が感染蚊となった可能性が考えられる. デング熱は,その名前から比較的あたらしい病気のよう に誤解されることがあるが,その歴史は意外に古く,1942 1945年の流行以前にも台湾や沖縄で流行があり 6),我 が国においても大正時代にすでに研究されていた感染症で ある.患者の血液をさまざまな動物に接種してなんらかの 症状が発生しないかといった研究がなされていた.マウス, ラット,モルモット,ウサギ,イヌ,ヤギなどの哺乳類を はじめハトやトカゲにいたるまで試されたがいずれも明確 な症状を呈することはなかった 7).このような熱心な研究 を背景に,上述のように太平洋戦争中に西日本を中心にデ ング熱の国内流行が発生したわけである.1943年に堀田 進博士らが長崎でデング熱患者からデングウイルス 1型を 1. 国内で発生したデング熱流行 2014年

[1]  Klaus Hentschel,et al.  Autochthonous dengue virus infection in Japan imported into Germany, September 2013. , 2014, Euro surveillance : bulletin Europeen sur les maladies transmissibles = European communicable disease bulletin.

[2]  S. Hotta Dengue epidemics in Japan, 1942-1945. , 1953, The Journal of tropical medicine and hygiene.

[3]  S. Inoki,et al.  Studies on the Experimental Inoculation of Dengue Fever. , 1951 .