2,2'-二置換ベンズピナコールの立体構造に関する一考察

2,2'-二置換ペンズとピナコールの転位機構の認識の基礎として,その立体構造に関する知見を得るために,四酢酸鉛との反応の速度,IRスペクトルの水酸基伸縮振動数(νOH)およびNMR スペクトルの水酸基陽子化学シフト(δOH)を測定した。その結果つぎのことがわかつた。i)前報までのいわゆるラセミ体はメソ体より反応速度が大きい。ii)メソ体では1種類,ラセミ体では少なくとも2種類の分子内水素結合が存在する。iii)ラセミ体のνOHおよびδOHは,メソ体のそれらより低波数側,低磁場側にそれぞれある。iv)ο-メチルおよびρ一メトキシ置換体の場合,IRスペクトルで分子内水素結合が認められるのに,δ0Hはいちじるしく高磁場にある。V)ベンゼン中では,δOHは四塩化炭素申のそれよりわずかに低磁場側にシフトしている。vi)ο-エトキシ置換体の場合,そのメチレンプロトンは,メソ体でAB型の分裂を示しジラセミ体ではA2型のシグナルを与える。これらのことから,前報で与えた便宜的なメソ,ラセミの帰属を確証し,水酸基とオルト置換基との分子内水素結合の存在と立体配座とが推定された。