8Kスーパーハイビジョン(Super Hi-Vision: SHV)は,ハ イビジョン(画素数:水平1920×垂直1080)の16倍に相当 する約3,300万画素(同:水平7680×垂直4320)の超高精細 度映像および22.2マルチチャネル音響からなる,高臨場感 映像・音響システムである1)~3).現在のハイビジョンによ るスポーツ番組などの中継番組制作では,さまざまな場所 から動きの速い映像を高品質に伝送するために,ダーク ファイバなどの光ファイバ専用線を利用した非圧縮ハイビ ジョンインタフェース信号(High-Definition Serial Digital Interface: HD-SDI)伝送が行われている.そこで将来的に も,ハイビジョンと同様に,非圧縮SHV映像のインタ フェース信号を長距離伝送可能なシステムを実現できるこ とが望ましい. 4K/8K映像のインタフェース信号がU-SDI(Ultrahighdefinition Signal/Data Interface: U-SDI)信号として規格化さ れている4)~6).U-SDI信号は,種々の映像パラメータで構 成される非圧縮の4K/8K超高精細度テレビジョン信号1)~3) を,伝送速度が10.692 Gbpsの信号(10Gリンク信号)に よってマルチリンク伝送するベースバンド信号である.USDI信号の物理層規定では,放送スタジオ内の機器間等の 短距離伝送用を目的とした,光波長850 nm帯を用いたマル チモードファイバ伝送と,スタジオ間等の比較的距離が長 い伝送用を目的とした,高密度波長多重(D e n s e Wavelength Division Multiplexing: DWDM)グリッド7)上 の最大24波を用いて,複数の10Gリンク信号をシングル モードファイバ(Single Mode Fiber: SMF)上で波長多重伝 送する物理層規定が記されている. 非圧縮SHV映像のような大容量信号をSMFで長距離伝 送する際に生じる波長分散は,波形劣化によるデータ誤り を発生させ,伝送距離を制限する要因となる.さらに,伝 送速度が10 Gbpsを超えるような光信号の長距離伝送では, 光ファイバの偏波変動に起因するデータのバースト誤りが 発生しやすくなる8). 波長分散補償には,電気的/光学的な処理が存在する.電 気的な処理では,電気分散補償器(Electronic Dispersion Compensation: EDC)9)やディジタルコヒーレント技術10)11) が研究されている.一方,光学的な処理では,波長分散補 償値が固定のものと,可変のものがある.可変分散補償技 術には,ファイバブラッググレーティング(Fiber Bragg Grating: FBG)型の可変分散補償器12)やVIPA(Virtual Image Phase Array)型13)などがある.これらは一般には 伝送速度が40 Gbpsを超えるような伝送において,温度変 化などによる分散変動を動的に補償する目的で用いられ る.他方,伝送速度が10 Gbps程度の伝送では波長分散補 償値が固定のものが多く用いられる.固定分散補償技術に は,FBG型の固定分散補償器 14)や分散補償ファイバ (Dispersion Compensation Fiber: DCF)15)などがある. FBG型は波長分散補償の動作帯域が狭くWDM信号を一括 補償することが難しいのに対して,DCFはWDM信号の広 い波長域にわたって波長分散補償が可能である.さらに DCFは,伝送距離に応じた波長分散補償値をもつDCFを あらまし ハイビジョンの中継番組制作では,光ファイバ専用線を介した非圧縮インタフェース信号の長距離伝送 が行われている.そこで,将来的に非圧縮8Kスーパーハイビジョン(Super Hi-Vision: SHV)映像のインタフェース 信号(Ultrahigh-definition Signal/Data Interface: U-SDI)も同様に長距離伝送できることが望ましい.大容量信号の 光ファイバ伝送では,波長分散に起因するデータ誤りの発生によって伝送距離が制限される.分散補償ファイバ (Dispersion Compensation Fiber: DCF)や,前方誤り訂正(Forward Error Correction: FEC)は,大容量信号の長距 離伝送におけるデータ誤りを低減する技術として有効である.そこで,本稿では,U-SDI信号にFECを付加し,DCF と併用して伝送する開発装置の詳細について述べる.さらに,開発装置を用いた173 kmの長距離フィールド伝送実 験を行った結果,非圧縮SHV映像の安定伝送に成功したので報告する.