本研究では, 高齢者にとっての駅の案内表示のユーザビリティについて, 加齢に伴う機能低下が知られている, プランニング・注意・作業記憶機能に着目し, これらの低下と駅における移動行動の関連を明らかにする. 第1回目の調査では, 認知的加齢特性検査を168名の高齢者を対象に実施し, 全機能優位群, 1機能のみ低下群3群の計4群を抽出し, 各群に属する3名に, 秋葉原駅, 大宮駅, 巣鴨駅のいずれかの駅で, 乗り換え・駅施設利用課題を遂行させた. 第2回目の調査では, 同検査を154名の高齢者を対象に実施し, 1機能のみ優位な群3群を抽出し, 各群から, 東京駅, 渋谷駅, いずれかの駅の利用経験のある者2名, まったくない者1名の計3名を選出し, 駅構内の目的地までの移動課題を遂行させた. 課題遂行過程を, 認知機能の低下パターンに駅に関する知識である駅のメンタルモデルがどのように利用されているかという点も含めて分析した結果, 1) 注意機能があっても, プランニング機能が低下している場合は, メンタルモデルがあるときには, 表示を見ない. メンタルモデルがないときには, 何を見つけるべきかが定かでなく, 不要な情報を取得するのみで, 課題達成のための情報取得を行わず, その結果, 迷う, 2) プランニング・注意機能が低下している場合には, ゴールの設定があいまいであり, 案内表示からの情報の取得が十分になされず, 迷うことになるというユーザビリティの問題があることがわかった.