[A case of hyponatremia due to resetting of osmostat with cavernous angioma of the anterior third ventricle and hypernatremia following its operation].

浸透圧閾値の低下による低Na血症と術後高Na血症を呈した第3脳室前部cavernous angiomaの1例を経験した.症例は41才の男性. 39才の時,急に多飲多尿と頭痛を自覚した.低浸透圧性低Na血症とCT上第3脳室前部から左視床下部にいたる高吸収域が認められ,脳外科にて照射と化学療法を行なつた.照射の前後に施行した脱水試験では,いずれも,不全型尿崩症に一致する成績が得られた.照射後のCarter-Robbins試験では,血中ADHが高張食塩水の投与に反応し,血漿浸透圧が254から266mOsm/kgに上昇する時, 0.2から3.9pg/mlまで増加した.すなわち, ADH分泌には,低浸透圧領域においても浸透圧性調節機序が認められた. 40才時,頭痛,視野狭窄と腫瘍像の増大が認められたため,全摘術を行なつた.腫瘍は,第3脳室の前壁および左側壁から視索上部または側頭葉におよぶcavernous angiomaであつた.術後, Korsakow症候とともに渇感の低下,多尿と高Na血症が出現した.脱水試験およびCarter-Robbins試験では,尿濃縮力障害が認められ,完全型の中枢性尿崩症と診断された. ADHの分泌は,浸透圧の増加や容量の減少によつても,全く刺激されなかつた.血清Naは, DDAVP 2.5μgの就寝前投与により軽快した.第3脳室前部には,水電解質代謝の中枢が存在すると考えられている.術前には腫瘍の存在が,術後には手術による侵襲が,同中枢を障害していたため,興味あるNa異常を呈したものと考えられた.