[Studies on craniofacial morphology in monozygotic twins with cleft lip and palate (author's transl)].

唇顎口蓋裂患者の顎顔面形態に対する環境的要因, 特に手術による影響を検索する目的で, 同胞のうち1児あるいは両児に唇顎口蓋裂のみられた双生児のうち, 性別, 血液型, ABH分泌型, 血清型による卵性診断の結果99.0%以上の確率で1卵性双生児と診断された6組の双生児を研究対象とし, 側方頭部X線規格写真および石膏模型について各種計測を行い, 同胞間で顎顔面形態, 歯列弓形態を比較検討し, 次の結果が得られた。1 (右側唇顎裂児/非患同胞) : 右側唇顎裂児は非患同胞と比較し, 顎顔面形態, 歯列弓形態ともに類似していた。2 (左側唇顎口蓋裂児/非患同胞) : 左側唇顎口蓋裂児は非患同胞と比較し, 上顎の発育不全, 上顎歯列弓の狭窄が認められた。また, 頭蓋基底部および下顎に同胞間でやや差がみられ, 全身発育の影響が考えられた。下顎歯列弓形態は同胞間で類似していた。3 (口蓋裂児/粘膜下口蓋裂児) : 既手術口蓋裂児は未手術の粘膜下口蓋裂同胞に比較して, 頭蓋基底部および上顎の前方発育は類似しており, 下顎は軽度下方に位置していた。また, 歯列弓については, 口蓋裂児の上顎長径がやや小さかったが, 上顎幅径および下顎各径は同胞間で類似していた。4 (右側唇顎口蓋裂児/両側唇顎口蓋裂児) : 両側唇顎口蓋裂児は右側唇顎口蓋裂同胞と比較し, 頭蓋基底部, 上顎の前方発育および下顎の形態は類似しているが, 口蓋平面が下方に位置し, 上顎中切歯の舌側傾斜, 下顎の後方回転が認められた。また, 歯列弓については, 両側唇顎口蓋裂児の上顎は, 長径は大きいが, 幅径は小さく, 下顎歯列弓形態には破裂に伴う上顎歯列弓形態の影響が認められた。5 (口蓋裂児/口蓋裂児) : 口蓋裂同胞間では, 頭蓋基底部の発育は類似していたが, 上顎および上顎歯列弓の発育にはやや差がみられ, 裂の程度や, 術者による差が考えられた。また, 下顎の形態および下顎歯列弓の発育は, 同胞間で類似しているが, 下顎の位置には差が認められた。6 (軟口蓋裂者/非患同胞) : 成人まで未手術の軟口蓋裂者は非患同胞と比較し, 頭蓋基底部, 上顎の発育, および下顎歯列弓形態は類似していたが, 上顎中切歯の舌側傾斜, 上顎歯列弓の狭窄, 下顎の後下方への回転, および形態の変化がみられ, 軟口蓋裂の晩期残存による影響が考えられた。以上の結果を総括すると, 唇顎裂例あるいは口蓋裂単独例においては, 術後の顎発育障害がほとんどみられなかったが, 唇顎口蓋裂例においては障害が認められた。このことから, 唇顎口蓋裂患者の顎顔面発育に対する手術の影響を左右する要因としては, 症例の裂型, 特に顎裂の程度が最も大きなものと考えられた。また, 成人まで未手術であった軟口蓋裂例においても下顎の形態および位置の異常が起こることが示唆された。